2023年04月17日
シャーシダイナモ
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WR250X Negotiator-I インジェクションチューニング[後編]
こんにちは。Garage414 SonicChihuahua セッティング担当のシュンです。
こちらの記事は「後編」となっております。まだご覧になっていない方は、ぜひ[前編] からご覧ください。
[前編]はコチラ
前回はWR250Xの仕様紹介からサブコンの取り付け、現状測定までしました。
後編では現状データの測定からマップ作成を行い、セッティング前とセッティング後でのパワーグラフを比較していきます。
*後編では④~⑥の最後までご紹介いたします*
①車両の仕様紹介
②使用するサブコンについて
③現状の測定
④調整について
⑤前後比較
⑥まとめ/感想
④調整について
現状のスロットル開度100%領域パワーグラフ
メーカーから発表されているスペックでは、最大トルク回転数が8000回転で最高出力回転数が10000回転です。
現状のグラフを見ると最大トルク回転数が8500回転で最高出力回転数が10000回転です。
この車両は前後のスプロケットで変化するファイナルレシオが純正比よりもショートに振ってあり、吹けも良いので高回転域に到達する手前のトルク/パワーが重要になります。
高回転で引っ張るようなエンジンではないので、10000回転以上の伸びはあまり期待できません。
どれだけ低回転からトルクを盛れるかがセッティングの鍵となりそうです!
サブコンから出力されているデータログをリアルタイムでモニタリングしながら調節を行いました。
燃料噴射量の調整では純正のECUデータに対して何%補正するかを設定します。実際にソフトを開くとこのような画面になります。
縦軸は回転数で250回転毎に補正可能です。横軸はスロットル開度で5%毎に補正可能です。かなり細かく設定できます。
細かく設定できるからこそ難しい部分も多くあります。その中の1つの要素をご紹介します。
マップを書いていく上での最も重要な要素として「全体の繋がり」が挙げられます。
例を交えながら簡単にご説明します。
(例)補正したい値
※実際にはここまで大きな値を入力することは少ないですが視覚的にわかりやすいので一例としてご紹介いたします。※
現状把握の後ににざっくりと部分ごとに補正したい量が決まります。このまま書き込んでも機能はするとは思いますが、マシンのポテンシャルを最大限引き出すためにはこのままでは不十分です。
燃料噴射量の調節では濃く設定している部分と、薄く設定している部分の境界線が「全体の繋がり」に影響するので非常に重要です。
このマップで言うと下図の赤丸で囲んでいる辺りです。
大量に燃料を噴射しているセルから、急に燃料を減らすといった極端な補正数値の書き込み方は好ましくありません。
このような書き方をすると空燃比は合っていても、境界線付近でトルクに谷が出来てパワーロスへと直結します。
では、どのように書き込むかですが、下図で極端な補正マップを滑らかに書き直してみます。
色の変化にお気づきいただけましたでしょうか?
特に補正したい部分に向けて徐々に燃料噴射量が移行していくように整えました。本質的には最初のざっくりと書いたMAPと変化ありませんが全てのセルが階段状になって繋がっています。
このように燃料噴射量の変化には滑らかさが重要です。そのためセッティングソフト上でも補正量によってセルの色が変わる仕様になっている物が多いです。
燃料噴射量の調節で最大限のトルクとパワーを引き出すためには、このように移行の流れを整える作業が必須となります。
私たちも日常生活で階段を上る時に段差が異なるものを上がるのは苦しいですからね!
続いて点火時期の調節です。こちらは燃料調節よりも更に丁寧に移行の流れを作る必要があります。
燃調と同様に補正したい値を入力します。
ここで最も重要となるのが入力する値が「角度」を表示しているのか、現在の「角度に対して補正するパーセンテージ」を表示しているかを把握しておくことです。
これを把握せずに触るとすぐにエンジンブローしてしまいます。
またパーセンテージで補正するならば1%の変更で点火角度が何度動くかを把握しておく必要があります。
例えば上死点前10度で点火している車両ならば1%の補正で動く角度は0.1度です。10%の補正で1度動きます。
点火時期の変更はエンジンの燃焼効率に大きく影響するのでパワーアップさせる上で最も重要な要素となります。
クイックシフター機能(別途スイッチ要)を有効化
取り付けたスイッチを押した瞬間に燃料噴射と点火をカットする時間を設定します。
各回転数ごとに秒数を入力します。単位は[msec]です。1秒の1000分の1(0.001秒) です。これだけ一瞬の点火カットでギアが入るか否かが決まります。
こちらも設定値に適正でないものを入れるとミッションに負荷がかかり、ミッションブローへ繋がります。
シャーシダイナモで数回のテストを行って設定します。
クイックシフターは高回転時に大きくかかっている駆動を瞬間的に抜くことでペダルのみでのシフトチェンジを可能にしています。そのため駆動力が少ししか掛かっていない低回転時では入りにくいですし、タイミングがずれてしまうとミッションへダメージが入ります。だからこそ低回転域は高回転域に比べてカット時間を長く設定します。
といっても低回転時と高回転時で0.03秒程度しか変わりません。それくらいシビアな設定ということです。
これらのセッティングをすべて終えたので続いては調整前後比較です。
⑤前後比較
各スロットル開度ごとにトルク/パワー測定しました。
公開しているパワーグラフは補正してあります。(修正係数:SAE)
簡単にご説明すると「夏に測定しても、冬に測定しても近い馬力になる」ということです。馬力としては低めに出ることが多いですが、再現性が高いので比較するにはもってこいです。
スロットル開度10%領域パワーグラフ
開け始めは1馬力のパワーアップに成功しました。このクラスの車両では1馬力は大きな変化となります。
燃料が薄く、トルクがえぐれていた部分を大幅に改善することが出来ました。燃料噴射量を調節後、点火時期を少しだけ進めることで大きく変化が現れました。
スロットル開度25%領域のパワーグラフ
こちらの領域も全域トルクとパワーをアップさせることができました。
高回転での粘りが調整前よりも増しました。
3000~6000回転にかけて谷が出来ていたパワーを滑らかかつパワフルに1.5馬力程度底上げできました。
スロットル開度50%領域のパワーグラフ
この開度からは顕著にパワーアップしています。前編でお伝えした5000~6000回転にかけてのトルクの谷が改善されたことでその後のパワーにも大きく影響しています。
この回転数はWRでは最も多用する領域となっています。
スロットル開度75%領域のパワーグラフ
この開度でも同様に5000回転付近のトルクの谷が改善されています。
7000回転~9000回転付近では大きくパワーアップすることはなく、空燃比を大きく変更してもグラフには変化があまり感じられませんでした。ピークパワーは1.5馬力ほど上がっており11000回転以降での落ち方も粘り強くなっています。
スロットル開度100%領域のパワーグラフ
全開領域ではピークパワーはあまり変わらないものの、それまでの中間領域が2.5馬力程度パワーアップしました。施工前の測定でも懸念していた通り、高回転型のエンジンではない為、上の伸びはあまりありませんでした。
実走でも10000回転以上を使用することはほとんどないので、これ以上追いかけることは止めました。
以上が前後比較でした。すべての領域でパワーアップ出来ました。
今回は エアクリーナーボックスのエアフラップを除去、その部分の蓋を撤去して吸入口を拡大してある仕様でセッティングを出しました。
お手軽にパワーアップする方法としてこの仕様が多くの記事で紹介されています。
「むしろパワーダウンしているのでは?」と思ったので半分塞いでみました。
もともとはボックス上の蓋でかなり吸気が絞られているので再現してみました。
その結果は...
半分塞いだ場合と全開時の比較グラフ
半分塞ぐと全域パワーダウンです!
ボックスのエアフラップを除去、その部分の蓋を撤去は効果ありということがわかりました。もちろん撤去後に燃調が合っていないと空燃比が崩れて走らなくなる可能性はあります。
特に8000回転以上で大きく差ができています。吸気が足りなくてふん詰まりになるようです。
*結果としては良い結果となりましたが、[前編]での現状測定結果からわかるように燃料が激薄になりますのでご注意ください。*
ポテンシャルを最大限に引き出す事はもちろん、エンジン保護のためにもインジェクションチューニングが必須です。
⑥まとめ/感想
この車両は全体的に薄めでパワーが出る印象でした。もちろん車両の個体差がありますのですべてに共通して言えるわけではありませんが、バッチリ空燃比を合わせたからといってパワーが大幅に伸びる事はありませんでした。最初はひどく狂った空燃比を整えるだけで別物のようにパワーアップするかと思っていましたが、点火時期の変更やデジタル加速ポンプの微調節でようやくパワーアップしていきました。250ccという小排気量では1馬力アップが難しいです。
全てのインジェクションチューニングを終えて実走テストをしていただいたところ、燃料が濃すぎて素早いスロットル操作をしたときに歯切れが悪くなってしまいました。エアクリーナーボックスのエアフラップ及び蓋を撤去している状態では空燃比が大きく乱れます。これを完璧に合わせるために大きく補正を入れたところライダーのフィーリングとしては好ましくないものとなってしまいました。
そこで実走データを基に現在の未完成のマップから症状が発生する部分の燃料噴射量を減らしていき、落としどころを探りました。このフィードバックを通じて理想の乗り味でパワーアップをさせることが出来ました。やはりシャーシダイナモ上ではわからないライダーが感じ取る理想の乗り味を作るにはフィードバックが必須だということを再確認しました。
今回使用した[スペシャルエージェントNegotiator-I]は1つのモジュールで非常に細かい設定ができるので便利なツールでした。
やはりサブコンの強みはセッティング時の書き込みの速さです。作業がサクサクと進み試行錯誤できる回数が圧倒的に増えます。ECUチューニングの場合は書き込みに2~3分は必ずかかってしまうため完成までに時間がかかってしまいます。インジェクションチューニングの納期が短く出来る所も良さの1つです!
マップ切替機能が付いている物が多いので純正仕様にすぐ戻せるところも良さですね!
ということで「WR250X Negotiator-I インジェクションチューニング」のご紹介は以上となります。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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